LOGIN緊張しながら学校に通う。 そして放課後はどちらかの家で猛勉強。 で、家に帰ってきたら競馬の本を読む。 「圭太。これ持って行って。多い方が良いでしょ?」 「助かる。交通費もあるからそんなに勝負出来ないと思ってたんだ」 「その代わりしっかり稼いでくるのよ?」 「負けはないから大丈夫」 そんな日々を過ごしているとあっさり週末。 競馬へ行く前日の土曜日も俺の家で勉強してたんだけど、梓がなけなしのお小遣いを俺に持たせてくれた。これで交通費を除いても諭吉一人分はある。 しっかり稼いできますぜ。 「行ってきまーす」 静かに挨拶をしてから家を出る。 母さんは日曜日しか仕事の休みがなく、まだ寝ているのだ。1Rのパドックから見たいから俺が出る時間が早いのもあるけど。 自転車に乗って最寄駅へ。 電車で1時間もしないうちに東京競馬場だ。 「バレませんように。バレませんように」 一応持ってる服で大人っぽいのを選んだつもりだ。それでも少し芋っぽさは抜けない。 今日勝ったらそれなりの服を買うべきだな。どこに保管しておくか迷うけど。 いきなり高い服を買ってきたら母さんに疑われるし。 「第一関門突破だぜ」 東京競馬場の最寄り駅に着くとまず向かったのはコンビニ。 そこで念願の煙草を買う事に成功した。 これまでも母さんが寝静まってから何本かパクっていたのだが、銘柄が違う事もあって爽快感は得られなかった。 俺氏。立派なヤニカスである。 「でも俺が未来で吸ってた銘柄はまだ発売されてないんだよなぁ。これでも母さんのよりはマシなんだけど」 確か俺が高校一年の頃にマルボ○のアイスブラス○が発売された筈。 後一年はこのマル○ロメンソールで我慢しなければ。それよりも煙草の値段が安すぎて驚いた。この頃は300円台だったんだよなぁ。 未来ではまもなくお札が必要な値段になりそうだったのにさ。 俺はコンビニ前の喫煙所ですぱすぱと煙草を吸う。他にもおっさん連中が新聞を凄い目で睨みながらも御一緒に。 この人達も競馬場に行くんだろうなぁ。 因みに俺もしっかり新聞を購入済みである。 煙草で英気を養ってからいざ入場。 内心ドキドキしてるのを悟られないように堂々と歩く。幸い、俺の事を気にしてる人間なんておらず、バレる心配はなさそうだ。 平均以上身長があって良かった
なんとか金稼ぎについての目処が立った。 バレなきゃだけど。犯罪だし。 「き、緊張する」 翌朝である。母さんは既に仕事に行っている。 出る前に今日はしっかり行くように釘を刺されたのでおサボりは許されない。 しかしだ。40歳間近だった俺が、今更中学生に溶け込めるのだろうか。かなり不安である。 「だ、ダメだ。煙草吸いてぇ…」 未来では中々のベビースモーカーだった俺。 昨日はなんとか我慢してたが、そろそろ限界である。 大っぴらに吸う事も出来ない。なにせ中学生なので。 「うぅ。不便ばっかりだ…。母さんが寝てる間に何本かくすねておけば良かった…」 後でどうにか買う手段を考えよう。 幸い母さんも喫煙者なので匂いはなんとか誤魔化せるだろう。多分。きっと。めいびー。 「よし。行くぞ」 意を決して外へ出る。 なんだか制服がコスプレに見えてないか不安である。挙動不審になりながら歩いてるので不審者みたいに見えるかも。 「圭太!!」 「あ、梓!」 そこに救いの女神が。 途中から梓が合流してくれたお陰でかなり気が楽になった。 「制服って恥ずかしくない?」 「気にしすぎよ。堂々としてなさい」 梓さんはもう割り切ってる様子。 とてもじゃないけど、俺はその領域までいけないよ。 「おはよー!」 「おっはー!」 学校が近付くにつれて生徒が増えていく。 知り合いっぽい人達が挨拶してくるので、なんとか不自然にならないように返していく。 「やべぇな。マジで誰が誰だか分からん」 「そうね。困ったわ」 顔は分かる。あぁ。こんな奴居たなって思うんだけど、いかんせん名前が出てこない。 これは当分苦労しそうだ。 「俺って何組だったっけ?」 「私と一緒で三組よ」 靴箱の場所すら分からんってやばいよな。 名札が貼ってあったから良かったけど、無かったらここでもあたふたしていた筈だ。 「せ、席は?」 「覚えてる訳ないじゃない」 教室に入ってもまた苦難。 座席表とかないのかね。なんて回帰者に優しくない学校なんだ。 未来から過去に戻って来た人の事も考えてほしい。 「おーい、圭太! そんな所にぼーっと突っ立って何してんだ?」 「お、おう!」 えーっと。そうだ
その日の夜。 夕方頃に梓とはバイバイしてからも家でこれからの事を考えていると、母さんが帰ってきた。 「あんた、今日学校サボったんですって? 一体何やってるのよ」 どうやら学校から母さんに連絡がいってたらしい。ぷんぷんと怒ってる母さんをぼーっと見ていると自然と涙が出てしまった。 「な、なによ。どうしたの? どこか体調が悪いの?」 「な、なんでもない」 急に涙を流した俺を見て母さんはアタフタしている。口調は厳しいけど優しい母さんだった。 自分の事を後回しにして、俺の学費やらを捻出する為に必死に働いてくれていた。 恩返しする前に亡くなってどれだけ泣いたか。 「もう。明日はちゃんと行きなさいね」 「うん」 俺の頭をポンポンと叩いて台所に向かう。 しかし、今日はご飯は用意してるのです。梓が。 「あら? ご飯作ってくれたの?」 「梓が来てたから」 「よく出来た子ね〜。あんた、あの子は手放しちゃだめよ?」 「分かってる」 幼稚園からずっと一緒だった事もあり、梓と母さんは仲が良い。 というより、向こうの家とは家族ぐるみの仲だ。 母子家庭同士助け合いながら頑張ってきた。 「じゃあ頂いちゃいましょうか」 出来ていた晩御飯をレンチンして、テーブルに並べる。 「「いただきます」」 うまっ。え? うまっ! 「あら? とても美味しいわね?」 生姜焼きにご飯と味噌汁。至って普通のメニューなのに、高級料理かってぐらい美味い。 いや、確かに未来での梓は料理が上手だったけども。ここまでの味じゃなかったぞ? 「これがスキルの効果か? 一流シェフレベルじゃん」 「? 何か言った?」 「ううん」 梓の料理のレベルは5だったはず。 5でこれだけの味って…。10になったらどうなるんだ。これはスキルの検証も早い事しておいた方が良さそうだ。 「はぁー、美味しかった。あの子は良いお嫁さんになるわね」 「それは間違いない」 実際良いお嫁さんだった。 俺はガラケーを操作して梓にメールを送る。 久々すぎたけど体は覚えてるもんだな。 スマホの便利さに慣れてたけど、ぽちぽちと押すのがなんか懐かしく新鮮だ。 『料理がべらぼうに美味しいんだけど』 『私も家でびっくりしたわ。ママにどうやったのかって詳しく聞かれたぐらいよ』 メールを送ったらすぐに
「たっけぇ」 「とても中学生に払える額じゃないわね」 俺達二人の家はどちらかと言うと貧乏寄りだ。 両方共母子家庭で、生活に余裕がある訳ではない。お互いの母は俺達を養う為に必死に働いてくれている。 しかしその無理が祟ったせいか、俺の母は大学在籍中に、梓の母は大学を卒業してすぐに亡くなってしまった。それもあって働くのが嫌になったってのもある。 せっかく過去に戻ってこれたんだし、このバッドエンドは回避したいところ。 「ふむ。容姿とか学力を上げるのですら、こんなにお金がかかるのか」 例えば容姿は今50だけど、1上げるのに50万かかる。 運は20で1上げるのに20万。 「二桁の所の数字で金額が変わるみたいね」 「全部MAXにしようと思ったらどれだけお金がかかるんだよ」 スキルはもっと酷い。 歌はLv2で3に上げるのに200万。 競馬なんで6に上げるのに500万だぞ。 「あら? 新しくスキルを覚えられるのね? 一つ覚えるのに…ひえっ! 1000万!?」 たまんねぇなおい。 どれだけお金を取れば気が済むんだよ。 「いや、お金を払えば努力不要って事だろ? そう考えるとかなりお得なのか?」 「それでもよ。現状はどうしようもないじゃない」 俺達はまだ中学生。 バイトも出来ないし親にお金を無心する事も出来ない。しかしである。 「株なら出来るんだよな。母さんにお願いして、口座開設やらはしないとだけど」 「あら? そうなの?」 けど、ハードルがある。 まずはパソコンがない。ノートでもいいからとりあえず必要。その購入資金がない。 次にさっきも言ったけど親の説得。 株取引とかは、良く知らない人からしたらギャンブルと変わらないからな。 それを中学生の俺にやらせてくれるのか。 「これ、なんかお金の投入口みたいなのがあるから、ここに入れれば良いんだろうけど」 領収書とかくれるのかな? 無ければかなり面倒な事になるよね。 主に税金関係で。大金をこのステータスに注ぎ込む訳だしさ。 「とまぁ、軽く考えるだけで問題がいくつもある訳よ」 「私達の家は貧乏だものねぇ」 俺と梓は両方ともボロアパート住みだ。 必死に働いてくれている母さん達にお金を無心するのは気が引ける。 「でもせっかく戻って来れたんだぜ? 早く稼いで母さん達を仕事から離さ
「圭太! 圭太ってば!!」 「う、うぅ」 梓の声が聞こえる。ペチペチと顔を叩かれてみるみたいだ。もう朝か? 「って違う違う! それどころじゃなかった!」 意味不明な現象が起こりすぎて、脳が限界を迎えたんだった! 「そうよ! それどころじゃないのよ!」 目の前の梓はかなり若かった。 何故か中学の頃の制服を着ていて、とても可愛らしい。いや、既に可愛いってより美しい寄りに変貌してきているな。 「梓。ちょっと待ってくれ。俺は今信じられない現象に理解が追い付いていないんだ」 いつまでも梓の制服姿を眺めていたいところだったけど、自分の事で精一杯。 そう思ってたんだけど…。 「やっぱり圭太もなの? 私、てっきり死んだと思ったんだけど…」 「え? 梓も」 こいつはびっくらポン。 どうやら梓もこの意味不明な現象に巻き込まれているらしい。 「このステータスみたいなのは?」 「見えてるわよ。それの相談がしたくてわざわざ家まで来たんだから」 どうやら丸っきり同じらしい。 違うのは梓はテンパらずに、学校をサボってまで俺の家に来たらしい。ん? 学校? 「私達中学三年生になってるわよ。意味が分からないわね」 梓に言われて慌ててカレンダーを見る。 どうやら中学三年時の五月に戻ってきてるらしい。 「マジかよ。一体どうして…」 「ほんとにね。圭太が居てくれて良かったわ。私だけ過去に戻ってきてたら絶望してたかも」 それな。俺も梓が居てくれてかなり気持ちが楽になっている。本当に良かった。 「えーっと…もう10時か。とりあえず今日は学校をサボろう。で、これからの事について話し合おう」 「そうね。分からない事が多過ぎるわ」 それから自分達の事について話し合った。 ガラケーと新聞を駆使して、本当に過去に戻ってきたのかを確認。 パラレルワールド的な事もありえると思ったけど、そんな事はなく。 俺達が知っている過去だった。 「やべぇだろこれ。こんな事を今考えるべきじゃないんだろうけど、やりたい放題出来るぞ? 株を知ってる通りに買っていくだけで億万長者だ」 「圭太が株取引をしてて良かったわ」 なんで戻ってきたのかは知らんが、やりたい放題させてもらうぞ? 俺は若い頃から妄想でこの時にこの株を買ってればとか考えていたから、それなりに過去の事も詳しい
「はい利確〜。対戦ありがとうございました」 はいはい。今日のお仕事終了。 週末の競馬の為に調べないといけない事がいっぱいあるんだ。こんな事に時間を使ってる暇はない。 俺は咥えていた煙草を灰皿に押し付け、競馬新聞とネット情報を広げる。 「圭太ー。この前の動画の編集終わったよー」 「おぉーせんきゅー梓」 「仕事は終わったの? 私、買い物に行きたいんだけど」 「あ、俺も行きたい。もうちょっと待って」 むむむ。本命はやはり内の2頭のどっちかか。 穴に10番も入れるとして着順は…。 ボックスで買うか、フォーメーションで買うか。 迷うなぁ。最近は的中率も良くないし、安牌でボックスにしておくか。それならもう1.2頭見繕っておいた方が良いかも。 「ふむ。考察はこんなもんか。後はこれを動画でぺちゃくちゃ喋ればいいだけと」 「圭太も飽きないわね。チャンネル登録者も10万そこらしか居ないのに」 「まぁ、趣味でやってる程度だしな。競馬資金ぐらいになれば良いかなと」 俺の名前は谷圭太。 大学在籍中に競馬が大当たりして、それを元手に投資を始めた。そして、なにやらそれなりに才能があったみたいで、投資家として年収2000万ぐらいを稼ぎながら、ギャンブルを楽しんでる中年である。就職とかしたくなかったので万々歳だ。 まもなく40歳を迎えるのに、まともに働いた事もないクズ野郎です。 そして一緒にいるのが妻の梓。 幼稚園の頃からずっと一緒で、中学の時に交際スタートして、大学卒業後に結婚。 俺が趣味でやってるギャンブル配信に偶に出演したり、編集を手伝ったりしてくれている。 「チャンネル登録者1000万人とか達成してみたいよなぁ。夢のまた夢だけどさ」 「ギャンブルだけじゃ無理でしょ。他にも何か一芸がないとね」 「顔はイケメンだと思うんだけど」 「それで言ったら私は美女だわ。でも私達はもう40歳よ? 若い人には敵わないわ」 配信者をやるのが遅かったかぁ。 もっと早い段階から始めてたら何か違ったのかもしれないな。 それでもギャンブルだけじゃ厳しいか。 「有名になってネット民にチヤホヤされる生活を送りたかったもんだな」 「現状働かずに生活出来てるだけでも満足しないといけないんだけどね。世の社畜さんには申し訳ないけれど、人間慣れてくると欲が出てしまうわ